CULTURE

荒木田岳×DELI

 
   

Text by Riddim Online

2015年1月にRiddimOnlineに掲載された記事です。

 去る11月16日、沖縄で仲井真前県知事落選のニュースに湧く脇でもう一つ、日本のヒップホップ界にかつてない歴史が刻まれた。松戸市議選に出馬したDELI氏(NITRO MICROPHONE UNDERGROUND)がラッパーとして初めて、当選を果たしたのだ。44ある市議の席に44位で滑り込んだ氏が選挙で掲げたスローガンは2つ。「脱被ばく」、そして「脱カスタマー」だった。
 そして福島市に、2011年の原発事故直後から「脱被ばく」提唱を続ける人物がいる。福島大学行政政策学類、荒木田岳准教授だ。
 御自身が登場する「美味しんぼ 福島の真実編」111巻が刊行されたばかりの荒木田先生と、松戸市市議となったDELI氏。初対面の2人が、「脱被ばく」から紐解ける日本社会が抱える問題、今も収束からほど遠い「福島」を擁する日本の未来について語った。

DELI(以下、D):公園は、選挙前に測ったところで、1kgあたり10万ベクレルくらいは出ます。ただ福島と明らかに違うのは、局地的だということです。環境濃縮なので、除染がたぶん可能なんです。公園の全体は0.1マイクロシーベルト(以下、マイクロ)毎時以下くらいで、ベクレルだと大枠1000いかないくらいの中に10万とかが点在します。でも福島の場合はそういう「点」ではないですよね。

荒木田(以下、荒):松戸では、そういう場所が唐突にガーンとあるんだ。

D:それから、僕、一応市議になったんですね。

荒:知ってますよ(笑)。

D:ちょうど松戸は攻め甲斐があるのが、局地的なので、土壌が1万ベクレルくらいだと空間線量が0.23マイクロ毎時いかないんですね。つまり、8000ベクレルを超えたものは指定廃棄物として管理が義務づけられているのに、面的な汚染はないので、環境省のガイドラインに沿った基準で除染の有無を判断してると、見つけられないんです。

荒:そんなの50センチで測ってたら見つからないですよ。

D:矛盾点を議会最初の質問で通告しないといけないんですが、執行部は結局「それで大丈夫」と言ってるわけです。でも、そもそも基準がおかしいと思うのは、例えば神奈川の方が厳しくて、福島は甘い。つまり汚染があるところの方が基準が甘くなってるんですよ。その中で、たぶん東葛エリアは「一番向き合えるところ」だと思うんです。

荒:なるほど。

D:そして向き合った瞬間、「除染も可能」と僕は思っています。でもたぶん、これを福島でやろうとすると弊害が多い。僕は甲状腺検査についても「もっとやれ」と思っています。今、福島の県民健康調査で子ども30万人を測って100人も癌が出てるのを、「スクリーニング効果だ」とか言う人がいるわけじゃないですか。だったらなおさら西日本とか関東とか、やるべきでしょうと。それでやっと、本当に福島が特別じゃないかどうかがわかるわけで。

荒:ごもっともです。

D:予防原則の話をする人も一応はいるんですが、でも、決定権がある人は知見の話をしちゃったりとかする。「それ、何十年後の話だと思ってるんだよ」という。

荒:そう、今「エビデンスが」って言ってたら、解決はできないんです。だいたい、健康被害が出ないというエビデンスもないでしょう?だったら、予防原則で対応するほかないと思うんですけどね。

D:松戸は、向き合った瞬間に、申し訳ないですが福島みたいに「移動しなきゃいけない」とか、「地価が下落」という大問題じゃなく、安心して住める環境をつくる知恵を生み出せます。これは僕、街宣でも言ってたんですが、社会は「これから再稼動していくんでしょう」という流れじゃないですか。選挙を経て、どんなに反対が多くても結局自民党はそうするわけで、それに自分が間接的にでも同意してるんだったら、少なくとも福島の事故で何があったかをキチッと検証する。ここで知恵を生み出さなかったら、「今は被害者でも後の加害者になりますよ」って。それは川内原発の再稼動の時、鹿児島県知事が「知事の責任はないんですか?」って問われたのに対し、「福島でも知事は責任を問われなかった」って言ったんです。

荒:もう福島が、そういう前例になってしまっているんですね。

D:だから僕は東葛で前例をつくりたくない。それに今、この社会の豊かさを享受してる自分たちができることをしなかったら、「本当に加害者になりますよ」って。福島の人は東電の電力を1ワットも使ってないんだから。クリスマスとかになると言うのは、もし「夜景きれい」って言うんだったら、「どうこの夜景が生み出されているか考えてから味わえよ」って。震災の時も、物資を運んで東北行って帰ってくると、向こうはみんな分け合ってるのに、東京では家に食べ物たくさんあっても、コンビニは品切れじゃないですか。都会の人は余ってるのに分けられない。東北では、体育館で自分の食べ物もないのに隣の子供がお腹空いてるのを見て、おばあちゃんが支給されたおにぎりを分けてるんですよ。その時、「田舎ってすげーな」って。都会は分断されて感覚が麻痺してるから、もうちょっとお金だけじゃない価値観を広めたい。

●選挙前、「トップ当選狙ってる」と仰ってて、ギリギリの当選でした。

D:投票率が下がると組織票が強くなります。小さい選挙区では、圧倒的に無所属とか新人は不利じゃないですか。

荒:そりゃあそうですね。

D:それに地方選って一週間しかない。しかも僕の場合、これは落ちたらケチョンケチョンに言われたと思うんですが、まず葉書をやってない。電話かけ、戸別訪問をやってない。タスキかけない、スーツ着ない、ウグイス嬢使わないって、既存のやり方をほぼやらなかったんですね。このやり方でも受かるって証明をしたかったんですが、ちょっと調子コキ過ぎたかなって(笑)。だから、もう一回巻き戻ってもこのやり方やりません。朝立ちもやらなかったので。

●荒木田先生は、DELIさんの出馬は知ってましたか?

荒:知ってました。それも複数の筋から聞きました。知合いの知合いがみんな繋がってるんだと思います。

●「脱被ばく」を掲げて出馬する存在を知って、どう思われましたか?

荒:心強いですね。原発事故の問題って、エネルギー問題でも科学論争の話でもなく、被ばく問題ですから。政府もマスコミも被ばく問題を過小評価している中、足下から風穴を開けていくしかないので、市町村の、とりわけ議会の役割は大きいと思います。

D:それにしても福島は、給食に県内のお米を使うことに、助成金みたいのが出ますよね。ある意味、安全のPRに子供たちを使っている。

荒:そこは「お金か、命か」っていう問題では捉えられてこなかったように思います。原発事故後の不確実な状況下で、みんなが一歩譲ったんです。そしてその一歩が今では100歩になっているんです。

D:そこでも前例をつくっちゃった部分がありますね。

荒:でも、今の時点で巻き返さないとって言ってる人は少なくないから、そこは希望を捨ててはいけないと思うんですよ。僕はあんまり前向きじゃないんだけど、そこはそう思っています。

D:僕は福島、今のままでやり過ごせるとはまったく思わないですもん。だから、これが福島からだったらたぶん立候補してないと思うんですよね。

荒:それはよくわかります。

D:どうすればいいかわからないし、自分は松戸が故郷なので。それでもし、同じシチュエーションで自分が福島出身で、それで福島の議員になろうとするかと言ったら悩ましいとしか思えないと言うか。

●「脱被ばく」は最初から決まってたんですか?

D:決まってたし、考えたけど、他のものを入れませんでした。「なんで『脱被ばく』だけ?」、「他のことも入れた方が票が伸びるんじゃない?」とも言われたんですが、「脱被ばく」だけで通れば、「『脱被ばく』のニーズがこれだけあるよ」ってことを議会に示せる。だって、「被ばくを避ける」って普通に考えたら、立場とか主義とか関係ない。本当は色んなものを超越してみんなでやらなきゃいけないのに、できない理由はたぶん構造上の問題だという。

荒:まったくそう思います。

D:だからたぶん、被ばくのことに向き合うことができたら、他の問題のそういう構造上の欠陥にメスを入れられると思うんです。こんな被ばくのことにすら向き合えないで、他の問題も全部中途半端で終わると思うので。

荒:そう、「脱被ばく」というは多くの問題に通じるテーマなんです。

●そこは先生が「脱被ばく」に至った理由と似ていますか?

荒:利己的であっては、脱被ばくは実現できないんです。「福島の人は気の毒だけど、我慢してもらおう」ということが、中長期的には実は自分たちの生活を脅かすことになります。だから、脱被ばくは汚染された地域の問題にとどまらない、社会全体の問題なんです。逆に言えば、そういう大きなトレンドを作っていかないと、福島の問題に矮小化されてしまいます。だから、過小評価や矮小化を乗り越えてみんなが手をつなげるテーマだと思ったんです。

D:それを自分みたいな人間が言うことで、「なんであいつがあんなことを?」って、寝る前とかにでも、ちょっと考えて欲しかった。何にもそういう教育を受けてない人間が、なぜあそこまで人生をかけて言ってるのかって、「頭おかしくなっちゃったのかな」なり、「何か意味があるのかな?」って、考えて欲しかったんです。「なんで『脱原発』じゃないの?」っていうのも言われたんですが、「脱原発」ってみんなでやんなきゃできないじゃないですか。でも、「脱被ばく」は一人からでも始められる。一人一人が「脱被ばく」を始めた延長上で「放射能を生む発電所なんかいらない」って絶対なる(笑)。そもそも、原発全部停めてもここにある放射能はなくならいよっていう。

荒:そうなんです。もし「脱原発」ができたとして、「脱被ばく」はできない。むしろ、福島原発の「被ばく者」は放置されてしまうような気がするんですね。浜岡原発、川内原発が止まればそれでいいという話じゃないんです。

D:その辺とかも「いつまで思考停止になってんだ?」って。だから、学者も一般人も政治家も関係ないと思うんです。今みたいな時は、とりあえずある一定のところまではみんなで協力しないと。

荒:そこですね。僕自身、「脱被ばく」と言うことで、もう少し風が吹くかなと思ったんですよ。被ばくによってさまざまなリスクが高まるのだから、それを避けようということには支持が集まるんじゃないかと率直に思った。

●先生は事故後ごく初期から「脱被ばく」を提唱されていました。

荒:2011年度には言ってましたね。これは、実は「脱原発」へのアンチテーゼなんです。案外、被ばく問題を軽視する脱原発派は多いんですよ。「被ばくのリスクを軽視するなら、何のための脱原発なんですか」というのが私の疑問でした。逆に、被ばく問題を直視しないと脱原発など実現できるはずがない。レベル7の事故を起こしても被ばくリスクがないなら、何のために反対するんでしょう。放射線に「許容量」という考え方はなく、少量でも浴びただけ影響があるわけです。なのに、最近では「脱被ばく」が差別主義や偏見扱いされるのだから驚きます。そういう人が研究者の中にもけっこういるんですよ。そういう人には「他人に放射能浴びせたいの?」と聞いてみたいですね。結局、問題は「他者に被ばくを強要する側に立つ」のか、「それに反対する」のか、に尽きると思います。

●DELIさんに投票したのは若い世代が中心でしょうか?

D:名簿もつくらなければ何もしなかったんで、ぶっちゃけ誰が投票したかわからないんです(笑)。

荒:それすごい選挙の仕方ですよね。まさにゲリラ戦(笑)。

D:応援には山本太郎さん、アーサー・ビナードさん、三宅洋平さん。夜にはうつけん(宇都宮けんじ)さんも来てるし、本間龍さんも。あとはRINO君、UZI君、ブルヤス、TOMI-E、、

●では、ヘッズたちには響いたのでは?

D:それよりも、「どうしっちゃたんだろう?」みたいな感じだったかもしれないです。それから、こう言うと先生には失礼かもしれないんですが、学者ってもっと「学問に忠実」かなって思ってたんですよ。自分の研究のためなら浮世離れした感じもあるのかなと思ったら、「意外と迎合するんだな」って。だから、やっぱり、結構大変ですか?

荒:「美味しんぼ」の時も、私はああいう発言はしてないんですよ。少なくとも、学生を福島に集めて授業しながら「福島には住めない」などと言えば批判が来ることぐらいわかるわけで。だけど、結局「本人がそう言った」ということを、大学が記者会見で言うわけです。「大学の見解ではない」と言うからには、私が「言った」事実が必要なんですね。何かが根本から間違っているんです。

D:でもあれ、漫画じゃないですか。「ろくでないブルース」にブルーハーツが出てくるのと一緒でしょう?大学が漫画の内容で記者会見するって、ヤバくないですか?

荒:ヤバいと思う。しかも学長声明というものを、発売当日に出してますから。

●記者会見は県もやりましたよね。

荒:やりました。それで大学は浮き足立ったんだと思います。

D:「美味しんぼ」の鼻血は、実際知合いでも出たってやつがいるし、この前学会でも、「粘膜が急激に被ばくすると血が出ることがある」って発表されています。でも「誰も『美味しんぼ』に謝らねえのかよ」って。

荒:あの騒動が何を明らかにしたかと言うと、福島県が3年経って「『鼻血を出した人がどれくらいの割合でいるか』という調査すらやってない」ということなんです。「オレは福島に行って健康になった」、「鼻血を出したやつなんか聞いたことない」とか言っている人もいますが、それは全然反論にならない。「科学的に」とか、「根拠を示せ」と言うんだったら、自分たちも「県がやった調査ではこれだけしか出てません」と言うべきなんです。でも、そもそも調査すらやっていない。それには意味があって、調査すると、それを根拠に後々に責任を追及されたり、賠償を請求されたりするから、調べないんです。あ、といっても僕は「美味しんぼ」で鼻血の話はしてないんだけどね(笑)。

●福島の状況、「ここはほんの少しでも是正された」とかはありますか?

荒:まったくないわけでもなく、少しずつですが動いているとは思います。大学がやらない学生の甲状腺検査も、保護者の会のみなさんと一緒に、「たらちね」(いわきの市民測定所)の協力を得ながら実施しました。

●先生に対する風当たりは少しは落ち着きましたか?

荒:みんな飽きっぽいんでね(笑)。

●新刊が出たら、また再燃するでしょうか。

荒:「美味しんぼ」の新刊は、絵はそのままですが、セリフが変わって出る予定です。まあ、変わったら変わったで叩かれるし、変わらなくても叩かれるので、気にしても仕方ないんですよね。

D:僕も当選して、よく言われる「立場」として、「『脱被ばく』を貫くことがオレの立場なので」って(笑)。市の放射能対策課とか執行部は、環境省のガイドラインにはキチッと従って運用してるわけじゃないですか。だから問題は「運用」じゃなくて、「基準」そのものだと。基準がどれだけ破綻してるか、それはもうデータ云々じゃなくて、「どういう風に思うんですか?」って、市長に直接聞こうと思っています。だからここは、そもそもの汚染のレベルが違うんだから、松戸市が独自基準を打ち出すべきじゃないですか。

荒:それは理屈が通ってますね。

D:ただそこで揚げ足とられると、「ほらやっぱりあいつわかってない」となって終わりじゃないですか。だからもちろん理論武装して、「オレのこと論破してください」って。だって僕はそういう人たちの票だけでここに来て、「『脱被ばく』しか言ってないんだから」って。

荒:議会の場で想像されるのは、執行部が「答えない」ってことですね。長々と関係ないことを言われ、正面から答えないという。

D:運用については突っ込みどころありません。一つだけあるのは、50センチの高さで測ってて、「そこに人間の重要な臓器はない」って言うんですよ。「いや、公園の子供にはありますよ」と。しかも内部被ばくは想定されてないし、もし吸い込んでも、鼻水とか咳とかで出てくるらしいってことが、医学的な見解だと。

荒:長期保管されていた長崎の原爆で死んだ方の肺を解剖したら、そこにプルトニウムのアルファ線による内部被ばくの痕跡が発見されたというニュースがありました(2009年8月)。長崎大の七条さんという女性の研究者の方でしたね。

D:それでも内部被ばくはないものとされている。

荒:そこは全然科学的じゃなくて、彼らの説明は、まず「内部被ばくは健康影響に寄与しない」という結論ありきなわけです。その前提から計算式をつくるので、その「寄与しない」という計算式に数字を入れれば、「寄与しない」という答えが出ます。当り前ですよね。だから結局トートロジー(同義語反復)なんです。「計算が合っているから正しい」とか「科学者が言ってるから科学」だと思ったら大間違いで、論理的に破綻してるんです。

D:地方自治体というのは「市民の安心安全を守るため」にあるんだから、はっきり科学でコンセンサスが得られてないものは、予防原則で判断を安全寄りにすればいいのにって。

荒:まったくです。仮に100ミリシーベルトまで影響はないとしても、普通は1ケタ、2ケタも安全マージンをとった上で基準をつくるものなんですね。農薬でもその他の化学物質でも、影響が見られなくなったところを基準点にするなど、ほかのどの分野でもやっていませんよ。なぜ放射線だけにそれを適用するんでしょうか?だから、彼らのやってることは二重にも三重にもおかしいんです。

D:甲状腺の検査も単年度で助成金が出てますが、ホールボディカウンター(WBC)の助成金の方が高い。でもそんなの本来一般人がやるもんじゃないし、直接医療行為にも繋がらないし、「なんでこんなものの助成金が甲状腺エコーより高いの?」って。

荒:WBCは、2011年3、4月には意味があったと思いますが、3年半経ってやることじゃないですよね。それに体内に入ったアルファ線、ベータ線は検出できないから、ダメージの大きなものほど検出できないんです。

D:僕、甲状腺エコー検査をやってることを「もっと広報しろ」って言ったんですね。そしたら、「それを広報することで余計な不安を巻き起こす」って。「え、ちょっと待って」って。「じゃあ、なんで始めたの?」って言ったら「市民の不安の声に応えて」と。「市民の不安の声に応えて始めた検査について広報したら不安を巻き起こすってどういうこと??」って(笑)。

●福島市議会でも、子どもの被ばくに対して慎重な意見は軽視されがちです。

D:福島や郡山のケースは、向き合った瞬間に、対応しなきゃいけないレベルが、予算の問題も含めて規模が違います。除染はたぶんできないし、それより人が移動した方が絶対コストもかかりません。

●そもそも測らない、測らせないという状況もあります。

D:知合いの整体師さんが郡山にいます。聞くと、最近滅茶苦茶骨折が増えてて、鉄棒やって普通に着地するだけで骨折する子どもとかがいると。チェルノブイリでもそういうことはあったらしくて。

荒:カルシウムとストロンチウムは元素周期表の同じ列に属していて、体内での挙動が似ているそうです。骨がストロンチウムをカルシウムと間違えて取り込むと、そういうことが起きるということらしいです。白血病などもそういうメカニズムで起こりうると聞きました。

D:血液検査、甲状腺エコーにしても、「専門医がいないから、これでも頑張ってるんだ」みたいなこと言われるんだけど、「心電図と血液検査なんか誰でもできるだろう」って。

荒:血液検査や心電図はすごく大事でしょうね。

D:「その必要性も感じない」って執行部は言うんです。

荒:それは執行部が決めることじゃないですよ。医者の「こういうことをやればこれがわかる」という判断のもとで決めることであって。

D:すると、「医者から『意義が見出せない』って言われてる」と。

荒:「意義がある」って言ってる医者の意見書を持っていけばいいんです。「一方の立場の医者の言うことばかり聞くな」と。

D:僕、もう福島から新たな局面が切り拓かれること、ないんじゃないかなと思ってるんです。だから東葛くらいが頑張って「じゃあこれ、福島でもやらなきゃダメじゃねえか」っていう風にできないかと。

荒:たしかに、茨城や宮城では「なんで福島でやってないのに、うちでやる必要あるの?」という話になっていますね。そういう線上でやっては打開できません。なので、仰せのように東葛の動きが福島の流れを変えるという関係なのかもしれませんね。そこは複雑な気分ですが。

D:でもその状況では、そのまま福島にいて、自分が結局病気にならなかったとしても、悲劇は悲劇ですよね。

荒:悲劇です。そういう全国の活動とか、色んなところで測ってるものとかを、ちゃんとまとめられないものでしょうか?

●線量計測については「みんなのデータサイト」があります。それから、福島でありがちなのは「測りましょう」という話が出ると、「高い値が出た時の対処がわからないから、やめましょう」と。

D:それ、ウソでしょう?

荒:基本は、「調べない」ですよ。調べてデータを残すと後で言われるから、行政はとりあえず「データを取らないのが最大の戦略」と思っている節があります。そして、例えば土壌を何ヶ所か測っても、その上で数値が一番低いところを発表すると。震災の年の新聞で、高線量の場所が見つかったが、すぐ近くの6000分の一の数値を発表した、という記事を読んで開いた口がふさがらなかったことがあります。

D:このままだと、やっぱり今後差別が生まれる可能性があると思います。今きちんと向き合わないことによって、後からとんでもない、そこからどうにもならない差別が生まれることがあるかもしれないってことは、みんな考えてないですよね。そういうことを生まないためにも、今キチッとやらなきゃいけないと思うのが普通だと思います。今後何か起きたら、医学的にいくらそうじゃないって言われても、「これ、放射能の影響かな」って思ってしまう。

荒:福島では皆そういう感覚を持って暮らしてるんです。鼻血が出れば「これは?」と思うし、風邪が長引けば「これってやっぱり」と思う。でも、「美味しんぼ」問題をめぐる社会的圧力などが、そういうことを表だって言えなくしてるんですよね。

D:それがどこかのタイミングで溢れ出だした時とか、怖いです。

荒:健康被害が出ていなければ被害がない、というわけでもないと思います。被ばくによるリスクを抱えた瞬間に被害は発生しているし、僕自身、明日は我が身とも思っています。逆に言うと、そういう想像力を持ってないと、その後のリスクを減らせませんし、実際に何かが来た時に耐えられないですよ。

D:僕が立候補する前にも、引越すべきか相談してきた人間がいて、そういう時に言ったのは、リスクあるかないかもハッキリ言えないし、でも「やっぱり騙されてた」で全部が片付くと思ったら大間違いで、「今やれることあるからね」って。それは、僕に「残るのも仕方ないね」って言って欲しいみたいだったので。

荒:そういう答えを求めてるように聞こえるよね。

D:「引越した方がいい?」って来て、「そうすれば」って言うと「いや、でもね」ってことを散々言ってくるわけですよ。

荒:じゃあ、「なんで相談しに来たの?」って。

D:そこは、「お前の人生、お前が決めなきゃ」っていう。

荒:そこ、すごく大事ですね。

D:だから「脱カスタマー」は、実はそういうことを言いたかったんです。「もっと能動的に生きないと」って。「やってくれないこと、世の中の不公平なんて当り前だから、お前が選択肢見つけて、自分で選んでくるんじゃん」て。

荒:自分の頭で考え、決断しないとね。

D:みんなが、もうちょっとそういうマインドになったら、もうちょっとはこの国、マシになると思うんですよね。それは、「大きく何かが変わる」というよりも。

荒:みんなが自分で判断して、決断してれていれば、少なくとも今みたいな風にはなってなかったと思う。逆に言えば、そういう勢力が増えれば社会は間違いなく変わると思う。それは本来、教育の仕事なんですけどね。

D:福島の子どもたちが36万人っていうけど、僕らが最初「オペレーションコドモタチ」を始めた時、「日本中の20歳以上の大人がどれくらい動けば助けられるの?」って考えて、「約170人で一人を助ければ全員助けられる」となり、「できるね!」ってなったんだけど、全然できなかった。僕、それが無茶苦茶お花畑だったってことが未だに受け入れられなくて。本当に未来のこと考えてるんだったら、数も少ない子供を救うのが当り前。それもできないで経済も何も、言わせないからって。

荒:でも、社会はそういう決断をしなかったんですね。

D:だから議会は、今度の3月は予算と代表者質問なんで、僕ができるかわかりません。ただ6月は一般質問なので、向こうはいつも、「科学者から言われてる」とあしらおうとするので、理論武装して。

荒:いろんな知見を結集して、みんなで準備していく体制をつくりましょうね。

●今は毎日どこかに出勤するんですか?

D:12月、3月、6月と9月に一般定例会があって、その2週間くらい前から僕みたいなやつは「何質問するんですか?」っていうのを通告しなきゃいけない。それで、それに対して執行部と「すり合わせ」しないといけない。それで今回も、一つ目の質問に対してはもう返答をよこしてきて、その返答も予想通り。「基準はこうだけど、矛盾がないか?」って聞いてるのに、「こういう基準で頑張っております」って。とにかく僕は、松戸市の公園を全部ホットスポットファンダーで測ってやろうと思ってます。松戸市は人口が多いから、年収はたぶん970万くらい、政務調査費も月5万円くらいある。それ使ってばっちり土を測ったりとか、関係するところに出向いて行ったりとか。「音楽活動やんないのか?」って言われるけど、一年目は無理だなと思っていて。

●ニトロの皆さんの反応はどうですか?

D:SUIKENは応援でライブしてくれて、DABO、BIGZAMは曲を録音してくれました。あとはトラが全然関係ない日に事務所に来てくれて「オレ、ライブやりたいんだけど」って言って、当日現れませんでした(笑)。他にも、お祭でブロックパーティーみたいなことやって、DJとかラップ、グラフィティを子供たちに教える文化交流みたいなこともしたいです。

荒:僕が心配するのは、公職選挙法ってうるさいことがたくさん書いてあって、何でも難クセをつけてくる。それは有権者に利益を供与してると受けとめられるような、例えば「イベントに連れていくだけでダメ」とか。

D:選挙中、オレのところにはずっと公安が来てました(笑)。でも僕の場合、ほぼ全部可視化しちゃって、何も隠してない。あとは選挙とかに関して2、30年やってる人たちが相談できるところにいて、違反かどうかは聞くと全部教えてくれるので、一応全部聞いています。山本太郎まわりにいた人で、その人がオレに「選挙出ない?」って言ってきてくれたんです。(笑)。

●その方が最初に出馬を持ちかけた?

D:実は山本太郎の衆院選、2012年の冬に応援に行った時に、その人と三宅洋平に「DELI君も議員になった方がいい」って言われて、それはたぶん国会議員って意味だったと思うんだけど。

●いけるんじゃないかと。

D:「やって欲しい」って言われて、「嫌だ」って言ったんです。「なるとしたら市議会議員とかじゃないと嫌だ」って。それは、変な言い方ですが、反原発とかと似てるんです。もちろん反原発だし、国政に関しても「こうなって欲しい」とかあるけど、僕一人が行って原発がどう止まるかなんて想像つかない。でも、松戸市の市議会議員だったら、攻め方によっては変えられる。

●市民それぞれが「カスタマー」じゃなくなるよう意識喚起できる。

D:そういう延長線上に国政や、原発が止まるか止まらないかということを決めることがある。ただ単に僕が国会議員になって、「そう決めました」ってなっても、表面的としか思えない。だから、「なるとしたら、自分のスタイルからしたら市議会議員ぐらいしか考えられない」って。

荒:それはよくわかる。

D:そうしたらその人は2年間そのことを覚えてて。で、「今年の11月あるけど、やるんだろう?」って。「いや、『やるんだろ』って言われても、準備もしてないし」って。それが5月頃でした。

荒:いいタイミング(笑)。

●今回「DELI」という名のまま市議会議員になることは有効で、社会を活性化できる動きと思います。

D:一市議会議員になるだけじゃ世の中の人は知りもしないですが、若い世代や僕みたいな、議員としてはおよそ似つかわしくない経歴とか風貌の人間が、そういう街のことにコミットできるということは体現しないといけない。

●先日、アナーキーさんもDELIさんの行動が最初はわからなかったけど、大事なこととわかってきたと。

D:それは悪口でもいいんです。でもちょっとでも無関心よりも、さっき言ったように「被ばくに向き合う」ことって、今の日本にある構造上の問題と向き合うことになる。「お前の街やコミュニティにもたぶん、この構造が原因の弊害が何か起こってる」、「お前ももう30代なら、もっと身のまわりの問題にコミットしろ」って。だから、そこには繋がると思うし、見られてる緊張感もあるし、たぶん、それはオレのためにもいいんです。それに、政党名をいただいた(アフリカ・)バム(バータ)は、「ヒップホップというのは、家族や仲間、コミュニティに対するメッセージだから」って。

●「福島は現代のブロンクスではないか」と仮定する人もいます。

D:ヒップホップのメンタリティは、今みたいな状況の中で必ず使えると思います。音楽って結局現実を変えないじゃないですか。人を変えたり、世界観を変えたりはするけど世界自体は変えない。でも世界のどこでも、貧乏なエリアとか、現実に変わって欲しい人たちが実はすごく音楽を信じてたりするじゃないですか。だから音楽って、何か糧になるんです。ヒップホップとかレベル・ミュージックのメンタリティは絶対、今みたいな時代に活きる。自分が今やっていることはヒップホップだと思っています。

荒:ただ、現場にいるからわからないこともあるし、また、顔が見えるから言いにくいこともある。本当に辛いこともあります。

D:そして福島も、この経済戦争に日本中が真っ最中で、最前線じゃないですか。

荒:草刈り場ですね。

D:お金が原因で色んなことがやれないんですから。戦争中みたいなもんですよ。

荒:除染作業員が16,000人も入ってきてて、家賃もあがって、それで飲食業者が潤ってるくらいです。そういう意味でもすごい歪んでるんです。

D:僕の知人でも一人、避難しようとした人が、避難をやめて除染をやり始めました。いちいちそういうことが、地元の人間に突きつけられてるっていうことも、まわりの人間にできることあるようにも思えます。同時に、福島の人の土地に対する愛着、執着は特殊にも感じます。

荒:でも、土地に対する愛着も、言い出したのは震災後のような気がします。

D:「離れるくらいなら、ここで死ぬ方がいい」って言うのも聞きました。

荒:そういう投げやりな発言は、僕らより上の世代だけでなく、若者にまで広がっています。そこが心配です。そもそも2011年に市内の小学校を開く時、県教委は線量を測りもしないで授業開始を決めたんです。「親たちが心配するから線量を測ることにしました」と新聞報道されたのが、学校再開の直前でした。僕が市内のある小学校の前で線量測ってたら、校長が出てきて「許可とりましたか?」と言うんですよ。「天下の公道で線量測るのに許可が必要なの?」って聞き返したら返事もせずに校内に戻っていきました。

●意識喚起のためにできること、色々あるような気がします。

D:経過観測は絶対必要で。チェルノブイリでは、放射能の影響で病気になるのは感受性の高い子供が多いと言われる中で、実は中高年への影響も大きいことがわかってきていると聞きます。免疫力が低下して、癌とかの進行を早めちゃうと。経過観測で、後世に「ここに住み続けるってことにはこういうリスクが伴う」ってことは残さないといけない。

荒:そもそも、自分がどんな核種の放射線をどれだけ浴びたか、誰も知らないんですから。こうした点を確定できないのに、「リスクはない」とか断定できる意味がわかりません。

D:ガラスバッヂなんか使って、「子ども使ってなんの実験してるんだよ」って。だから、土地に残るんだったら「自分で選択肢を設けて、自分からチョイスしてる」っていう当事者意識を持たないと。確率論ってロシアンルーレットだから。オリンピックも、あれでもし成功して復興だとかなったところで、絶対福島から恨まれる。だから、やるんだったら、ちゃんと同時進行でそういう人たちの気持ちもすくわないと。だって都会で使うエネルギーのために田舎にそういうものを押し付けて事故起こしたわけだから、さらにそういうものを都会でやることで「復興する」って言うんだったら、ちゃんとそこにも合わせる。それは相当ハードル高いとは思うけど、やっぱり努力しないといけないと思う。「福島はしょうがないよね」なんて言ってたら、本当に恨まれる。先生は、ユーストリームの番組とかに出てもらったらマズいんですか?

荒:それはどういった?

D:よもやま話でもいいんですが、細かい個別の話よりも、精神論というか、「いいか悪いか」、「安全か危険か」というよりも、自分の未来に対するビジョンを思い描いて、ちゃんと原発のこと、被ばくのこと、選挙のこと、政治のことを見ることが大事だと思うから、そういうことを話すんでもいいんですが。

荒:マズくはないですが、また矢面に立つのかと思うと気は重いですよね。次の人が出てこないと行き詰まっちゃいますから。それと、さっきの、「人のせいにするなよ」というのは重大なメッセージだと思います。それはみんなどこかで思いながら、直視するのを避けているというか。本当は、そういうことは今のうちに通っていかないといけない道なんですけどね。

D:これをきっかけにするしか、ポジティブな転換はできないから。ここから知恵を生み出さないといけないし、こういうことがなかったら浮き彫りにならなかった構造上の欠陥が見えたんだったら、ちゃんと一つ一つ自分たちの世代でケリをつけていかないとダメだと思うんですよね。

荒:僕が今、戦略的に一つ失敗だったなと反省しているのは、これまでは上の、いわゆる「権限を持ってる人」に向かって喋ってたんです。でも、上に向いて話していてもダメだったんですね。もっと歳下の若者たちに、「お前ら、本当にそれでいいのか?」って、そういうメッセージを発すべきだったんじゃないかと思っているんです。だから、今後は問いかける先を変えていこうと思っていて。

●これまでのやり方では構造上変わらない。

荒:一番大変な目にあうのは、子供たちでしょう。

D:その彼らは今実際選挙権もなければ、ジャッジすることもできない。それなら、それを育ててる2、30歳が当事者意識を持たないと、「『やられちゃった』じゃ済まないよ」って。それどころか、放置していれば間接的に加担してることになる。

荒:子供に言われるよね。

D:その時、「『仕方ない』って心の底から思えるの?」って。「お前ができること、本当にやったの?」って。別に一人一人が今の生活壊してまで世の中のために身を捧げろとも言わないけど、自分のできる範囲で、目の前の世界に対してコミットできるだろうという。「お客様じゃないんですよ」って。

●「脱カスタマー」。

荒:脱「客分」というやつですね。

D:「自力本願」になってくださいと。

荒:僕は「“脱”ナントカ」ではない、いい言い方を探していて、なかなか見つからなかったんです。ポジティブな響きの言葉が見つからなくて、それで「脱被ばく」というところに落ち着いたんですが。

●とはいえ「脱被ばく」は突き詰めると、社会の構造上の欠陥をあぶり出せる。

荒:今も何か、「“アンチ”ナントカ」じゃない、もっとポジティブな言葉を考えているんです。僕はそもそもそんなにポジティブなタイプではないので、なかなか思いつかない。だからこうやって、もっとポジティブな人たちと付き合わないと(笑)。

D:そういう意識改革は僕、ライフワークだと思っています。