MUSIC

Bitty McLean & Sly & Robbie 「Love Restart」

 
   

Sly & Robbie/Photo by Shizuo“EC”ishii

2018年10月にRiddimOnlineに掲載された記事です。

Bittyの新作が届いた。アナログ・レコードが6曲入りでダブ・ヴァージョン付き、CDは11曲入り。しかもアーティスト・クレジットはBittyとSly & Robbieの並列表記となれば、ここはひとつ3人に聞くしかない。
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●今度の『Love Restart』は素晴らしいアルバムだね。Sly & Robbieとの制作はこれでEP1枚、アルバム3枚ですね。ずっと彼らと組んでいる理由は?

Bitty McLean(以下、B):彼らぐらいしか僕のことを好きなミュージシャンがいないんだよ (笑) 。冗談だけど。Sly & Robbieとはベストを出させてくれる素晴らしい関係で、お互いにやりやすいんだ。ソングライターとしてもパフォーマーとしても最高だし、お互いにとても幸せだ。それが何よりなんだ。彼らはスタジオでもステージ上でも最高のミュージシャンだし、友人だ。

●今回のアルバムは、いつからつくりはじめたんですか?

B:このアルバムは2年半ぐらいかけて丁寧に時間をかけて制作したんだ。リディムトラックもいいしSly & Robbieが注いでくれたエネルギーに感謝している。Robbie Lyn, Mikey Chung, Guillaume Bougard, そして素晴らしいマスタリングをしてくれたAbbey RoadのAlex Wharton、彼らがアルバムに携わってくれて誇りに思うよ。アルバムは一人じゃできないからね。レコードもCDもとてもいい音がしている。とても誇りに思っている。

いくつかルーツィーな曲があるけど、彼らのトラックがチャレンジを与えてくれて自分のソングライターとしての幅を広げてくれた。今回のアルバムではお互いのベストを生みだせていると思うよ。ハードでルーツなバラードに取り組んで、ルーツ過ぎずラブソングだけではない絶妙のバランスだと思う。

●特に自分で気に入っている曲はどれですか?

B:全ての曲さ(笑)。 アルバムが未完成の時は何度もチェックのために聴くんだ。アルバムのプロジェクトが進行していると、どれが一番好きなのかわからなくなるんだ。全ての曲においてベストを求めるからね。パフォーマンスもミックスもそうだしそれぞれの曲のベストでなければいけないんだ。今アルバムを聴いてみるとしたら「Take My Heart」が一番好きかな。ヴォイシングした当初からSly & RobbieとRobbie Lyn、Mickey Chungの演奏によるリディムトラックがアルバムの一番目、イントロダクションになると思っていたよ。「Take My Heart」は特別なんだ。この曲がなければ、アルバムから何か足りないと感じていたと思う。この曲ができた時アルバムが完成したんだ。

●ツアーでの曲に対するリアクションはどうですか?

B:実は「Take My Heart」はもう1年半ほどUKのラジオでプレイされているんだよ。昨年の9月、アルバムをリリースするつもりでラジオ局に曲を渡してから、急にフィラデルフィアに行ったりして忙しくなってヴァイナルのプレスなど全てを今年に延期にしたんだ。

●今回のアルバムの特徴は曲の後半部分がDUBになっているけど、これは誰のアイディア?

B:それはRobbie Shakespeareからのアイディアからなんだ。「War Is Over」と2、3曲をヴォイシングしてラフミックスをRobbieに聴いてもらったんだ。オリジナルヴァージョンはドラムとベースにヴォーカルだけだった。それを聴いた彼はその生の感じをもっと打ち出すべきだと。でも「Take My Heart」や「Babylon Has Fallen」「Song of Songs」らの何曲かでRobbie LynのキーボードやMikey Chungのギターが素晴らしくてアルバムの全体をドラムとベースだけにすることはできなかったよ。だから曲の前半がヴォーカルミックス、後半をダブヴァージョンにすることにしたんだ。アナログも既にソールドアウトして再プレスしているところだ。自分とSly & Robbieの新しいコネクションが生まれたんだ。
「My Call」のアレンジメントが特に気に入ってて、全ての楽器をならしている。そこからダブミックスのモードに入っていくんだ。

●全ての曲のミックス、ダブミックスも貴方が行ったんですか?

B:そうだよ。全てのミックスとダブミックスをやった。ダブをするのはとても興味深い経験だった。オークションで手に入れて改修したアナログの16トラックのミキシングボードがあって、オールドスクールな方法でダブをしたんだ。オーセンティックにね。オリジナルのRevolutionaries、Aggrovators、Soul Syndicateとか、僕はダブミュージックも好きなんだ。

●音楽を作る上で何を一番大切にしていますか?

B:曲のムードを大切にしている。そのムードはSly & Robbieが演奏する音楽によるところが大きい。Sly & Robbieから送られてくるリディムトラックの全てにラブソングが合うとは限らない。だからそのリディムトラックに合うムードを見つけて人々が共感できるメッセージを吹き込んでいる。曲を聴いた人が個人的にその曲に共感できるようにあえてミュージックヴィデオを撮らないんだ。ヴィデオがいつもその曲を象徴してくれるとは限らないからね。曲を聴いたそれぞれの個人のものになるようにね。自分のことばかり書いて自分を満足させるためだけではない。その曲を聴いたリスナーそれぞれに感じてほしいんだ。

●このアルバムではルーツィーな曲も多いですね。

B:Sly & Robbieによるところが大きいと思う。『On Bond Street』はロックステディのアルバムだった。ロックステディでできることは限りがある。もしロックステディのリディムやラバダブミュージックで曲を作っていたら今書いているような曲はできなかったと思う。
Sly & Robbieが与えてくれた音楽的な土台はとても幅広くて、その音楽を聴いて自分に何を伝えてくれるかを感じて書くことができた。よりコンシャスな曲ではリアリティーを歌っているんだ。例えば「Open Eyes」はここ数年ヨーロッパでシリアやリビアからボロボロのボートで死を逃れてきた子供達の遺体が海岸に打ち上げられている。そういう本当の事を歌っているんだ。2018年になっても戦争がなくならないことや、戦争が近づいてきてる風聞を伝えなければいけないと思うし現実から目をそらしてはいけないんだ。

●「Babylon Has Fallen」はとてもフレッシュでコンシャスであると同時にとても明るく喜びを感じました。

B:Sly & Robbieの音楽の土台が全てを包括している。だから曲を書いていて様々な側面が出せるんだよ。アルバム『Love Restart』は私たちができる音楽的な可能性が広いことを示してくれた。”Baby I love you”みたいな曲だけでなくリリック的にもより深いところを追求することができた。もちろん音楽は楽しむものだけど、考えさせる力もあると思うんだ。例えばGregory Isaacs, Heptones, Curtis Mayfieldたちが世の中に問うような、答えを探させてくれるような面もあると思う。政治家やリーダーが嘘をついたり間違っている方向に導こうとしたり、人々が欲にまみれていることだったり疑問にすら思わないことを問う必要があるんだよ。

●このアルバムでは楽器を弾いていますか?

B:「Babylon Has Fallen」ではオルガンを少し弾いているよ。色々なところで目立たないように隠れて少し変なフレーズを主にオルガンで入れてるんだ (笑) 。「I’ve Found Someone」の途中のフレーズもそう。でも自分をミュージシャンだとは思ってはいないよ (笑) 。

●ソングライティングだけでなく自身のヴォーカルのレコーディング、ミックス、ダブミックス、そして楽器の演奏もしているということですよね。

B:そうなんだ。僕はすべての側面が好きなんだ。エンジニアリングもね。アルバムを制作している時は最終形を想豫してそれに近づけていくようにしている。さらにSly & Robbieはレベルが高いから良い音がするレコードを常に目指している。それがキーだと思う。
レコードは良い演奏に加えプロデュースもプレゼンテーションも最高でなくてはならない。テープをしっかり聴いて良いものを作り上げていくエンジニアリングも好きで、Sly & Robbieとアルバムを作っているということは6〜7人の別々のプロデューサーと仕事をしているわけではないから可能なんだと思う。このアルバムでは全てがうまくいった。Sly & Robbieという素晴らしいミュージシャンとまるで絵画の全てのピースを紡ぎだすようにアルバムを完成することができた。

●Bitty McLeanの音楽はとてもスウィートでロマンティックだと思うのですが、それは貴方の人柄を表しているのですか?

B:そう願っているよ。僕は世界中に10人の妻がいて50人子供がいる (笑) 。 冗談だ。自分の音楽が自分の人柄を表していることは重要なことだと思う。その音楽に真実があれば、人々は共感できると思う。

●8月後半から9月に中旬までヨーロッパをツアーしていたけど、Sly & RobbieとLenkyもいたんだよね?どの国を廻って、その結果はどうだった?

B:ツアーは最高だったよ。スウェーデンから始まってインド洋のレユニオン島、ベルギー、ドイツ、プラハ、フランス、そしてスペインのロッテルダムを廻ったんだ。合計9ショウだったと思う。Johnny Osbourneも一緒だった。Robbieが最近一緒に仕事しているJunior Naturalとも共演したし、ロッテルダムはYellowmanと一緒だったよ。Sly & Robbieがまさにあるべきテンポ、そしてエネルギーで演奏をすると人々がただ魅了されるんだよ。これがレゲエミュージックだってね。ツアーのレビューの評価も高く、最高だった。Sly & Robbie with Taxi Gangとのステージは頂点だ。素晴らしい経験だった。

●キャリアも長いですね? 今後はどうなっていきたいですか?

B:大学の学生としてサウンドエンジニアリングを学び始めたのが30年前になるよ。1988年、それがスタジオに足を踏み入れた最初の時だった。UB40のエンジニアとしてプロフェッショナルに仕事するようになったのが1991年、そしてアーティストとして活動するようになったのが1993年。だからもう25年になる。アーティストとしては一貫して活動し続ける事が重要だと思っている。レコードやショウに対して、常に人々が良い期待を持てるアーティストでありたい。それは簡単ではないがアーティストとしてクオリティーが高く一貫していることが大切だと思うんだ。次はフィラデルフィア(サウンド)のプロジェクトに取り掛かっている。プレッシャーもないし時間を使って曲を書いているよ。あと5年ぐらいはかかるかな (笑) 。

音楽は常に新しいリスナーを探してくれる。過去のアルバム『Movin’ On』『The Taxi Sessions』『Heart Mind & Soul』からの曲も、何年かたって新しい人々に辿り着いて聴かれることがある。音楽はリリースされたら終わりではなく育っていく、そういう過程も好きなんだ。

Bitty McLeanとSly & Robbieの『Love Restart』を皆んなが聴いてくれることを祈っているよ。近いうちに日本でこのアルバムからの新しい曲を披露できるのを楽しみにしているよ。

Sly & Robbie

2018年9月に北欧JAZZのニルス・ペッター・モルベルと来日したSly & Robbieの二人をブルーノート東京でキャッチ。

●Bittyとの1ヶ月前のヨーロッパ・ツアーはどうでしたか?

Sly & Robbieが二人同時に: 最高だったよ!!

●Bittyと作品を作るようになってもう12年になるね。一人のアーティストとこれほど長く続いているのはなぜですか?

Sly Dunbar (以下、S):Bittyと最初に出会ったのはロンドンでクリスマスの時期にスタジオからのスペシャル・ライブがあって、その中の一人のアーティストとして出会ったんだ。その後彼がUB40のAli Campbellと一緒にジャマイカに来たときに再会したんだ。Otis Reddingのトリビュート・アルバムを作っていて1曲録音したんだ。以後はロンドンに行ったら、彼がチェックしに来てくれたり、彼にリディムトラックや曲を送ったりしていたんだ。アーティストは色々なプロデューサーと組むのが普通だけど、Bittyとは長いことコンスタントにやっているね。

Robbie Shakespeare (以下、R): 時の流れるのは早いな。もう12年なのか? Bittyは最もクールなやつだ。Bittyはミュージシャンで、エンジニアでもありシンガーなんだ。Bittyはバッドだよ (笑) 。

S:そうだね。自分が何を求めているか分かっているから彼の音楽はいつもいい音がする。いいリディムを聴いたらわかるアーティストなんだ。

R:このアルバムは、スタジオに一緒に入らなかったが電話でここを変えようとか色々やりとりした。だから彼のスピリットは常に一緒にいたよ (笑)。ラフミックスを聴いてインストのダブやタフなミックスをもっと出したらいいと思ったんだ。「Broke My Heart」はベースが“ボボボボンボボボン、ドドゴドンドドドド”っていう感じで、それにドラムがいい感じで楽曲にフィットしていて、余計な音がなくてヴォーカルに合っていた。

S:「War Is Over」という曲は“トキトキトキトキトキトントン、トキトキトキトキトキトトトン、War Is Over”ってね。Bittyのミックスを聴いた時ダブのサウンドがとてもいいと思ったよ。だからヴォーカルが終わったらヴォイスを抜いて後半でダブにするように言ったんだ。リディムがストロングだったからそうするべきだってね。そのスタイルだと全てがうまく行くからね。このチョイスはエクセレントだ。

●「Take My Heart」のドラムパターンはとても特別で変わっていますよね。どうやってそうなったの?

S:Robbieがベースラインを弾いて自分がドラムを叩いた。こういう風に自然にそうなったんだ。他に言いようがないよね (笑) 。(Slyがスマホのスピーカーで「Take My Heart」をもう一度聴き直して)スタジオに長くいるからその間に変化してベストなスタイルやパターンになるんだよ。Bittyの音楽は正統系な音楽だから、それを自分の音楽の耳で捉えてリズムを刻んだんだ。ただ自分をプレイしただけなんだ。

●Sly & RobbieとBitty McLeanの今後を教えてください。

R: “The sky is the limit”さ。なんでも可能で日々やっていくだけさ。誰も俺たちが音楽を作るのを止められない。